2007年 05月 20日
DSLR生産国としての日本の責務、或いは企業の矜持
  ペンタックス問題も、HOYAの傘下に収まることで決着が付きそうである。恐らく、合理的に考えれば2,3年以内にカメラ、レンズとしてのペンタックスブランドが消滅する可能性が高い。この交渉の土壇場でペンタックスはホワイトナイトを探した様で、事実業界報(ここでは、カメラでなく金融、M&Aの世界)ではこのビッグビジネスに食い込むべく、国内のめぼしい企業にオファーをしたが、手を挙げた会社が皆無だったとのことだ。これがある意味止めになったかもしれない。



*先ず、ここにこれから書くのは色々見聞きできたことから私の妄想で書いている部分もあることを断っておく。

  ペンタックスとHOYAのそもそもの接近は巷間伝えられているとおり何も最初からHOYAがペンタックスの技術が欲しい、会社が欲しいとラブコールを送っていたわけでなくむしろ、投資家サイドからの要請、デジカメに端を発する業績悪化の切り札としてペンタックスの前社長の方からHOYAに接近したものである。最後にどんでん返しになったためにHOYAが無理矢理という構図に見えるがそうではない。HOYAからすれば、ペンタックスからの要請に乗った形が最後にいやいやされたとも言える。勿論、ペンタックス社内での意思統一のなさに加えて、HOYAとペンタックス側ではカメラ事業の継続については玉虫色、もしくは同床異夢であったのかもしれない。

  そして、このペンタックスとHOYAの統合がもつれこれを収拾するというビッグビジネスのチャンスに当たって腕の立つ猛者ども(失礼)が、外野から見ても「なかなかいないだろうな」と思える国内企業に的を絞って(あるいは、最終的にそうなったのかもしれない)ホワイトナイトを探したと言うところは押さえておく必要があるだろう。

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  もう一つ、注目する必要があるのはスパークスの存在である。スパークスは外資系ファンドと誤解される向きもあるが、日本の投資ファンドである。平均取得価格は5百数十円とのこと。最後にペンタックスが出した自主再建計画を元に算定した理論株価が600円台で、今回のTOB価格との価格差を考えれば、個人的には本ディールは必ずしもスパークスが暴利をむさぼっているとは言えない。その間の手間暇、コスト、ファンドという性格上リターンに対して抱えているリスクと勘案すればむしろ妥当すぎる価格と言えなくもないからだ。

 スパークスが12月に、ペンタックスの筆頭株主として躍り出た年は春にペンタックスが赤字を出して底にあった株価がどんどん上がっていった年でもある。あれだけの株をスウィープしながら集める過程は当然株価上昇要因となったであろう。スパークスが集めた集め方や、或いは裏で競り合う様に動きがあったか無かったかも定かではない。興味深いのはこのペンタックスの株価が上昇した時期に今回HOYAが欲しがる目玉と言われている医療事業ではめぼしい発表は何もなかった。この当時のビッグなニュースと言えば、ペンタックスの再建計画の発表と、サムスンと業務提携を結んだという記事があるのみである。K100Dや、K10Dの活躍はこの提携以降、スパークスが主要株主に躍りでて以降の事であるからだ。

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  今回、すったもんだの末一応の帰結を見せるようであるが私の勝手な憶測ではこのペンタックスという会社の事業売却ならいざ知らず会社ごと身売りをするというのが現実味を帯びてきたある段階で、ペンタックスを外資にだけは渡すわけにはいかないというある意志が明示的、或いは暗黙の中で働いたのではないかと思うのだ。

  折しも、今年の春から外資による三角合併が解禁された。三角合併の外資解禁は海外の巨額資本のその国への投資を活発化させると同時に、従来よりも格段に低いバーで会社が買える。従って、その国にとって重要な技術を有する会社の買収を通じて他国への技術、資源の流出を防止するための方策と抱き合わせで実行される。尤も厳しい規制を引いているのは他ならぬ米国であることも周知の事実である。実際、トヨタも、トヨタ自身が買収される可能性は低いが、トヨタに部品供給するコアな技術を持った会社が買収される可能性に関しては危惧を抱いていると言った感じだ。外資の買収となると、上場会社の派手な動きに目が動きがちであるが、ニッチなコアな技術を持った中小企業は数多くある。ここのオーナー社長さんが好業績のために、株式相続の評価額高騰→相続税高騰から息子に次がせるのを断念し、外資系の非公開株式の投資ファンドに株を換金してもらうというのはある話しである。

  日本も当然、この辺は承知していて遅ればせながら経産省でこの流出規制する業種を選定している。この四月には1991年以来16年ぶりにこの規制対象及び、業種の見直し(拡大)に乗り出した。例えばこういった記事だ。いみじくも今回業種だけでなく、品目でも拡大されるだろうと予想される例の中に、「炭素繊維は弾道ミサイルの材料になる。民生用の電池が軍事用の通信機器や潜水艇、戦車に搭載され、光学レンズが偵察衛星に使われる恐れも出てきた。」実際には、これらに関する政令、告示は6月にも出される予定である。

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 かつて、今以上に光学機器は国家防衛上最重要な技術であった。第二次大戦中ライカカメラを連合国側で入手できなくて米国は自国での開発をしたし、英国ではライカ所有者は拠出を命じられたという。日本を代表するニコンも、元は光学兵器製造会社として設立されたものである。
ツァイスを頂点とする光学技術はある意味独逸の門外不出の技術であったのだ。

 日本は、第一次大戦時は戦勝国として暴落したマルクにあえぐ独逸から日本光学が独逸の光学研究者をごっそり招聘することに成功する。これを元にカメラ用では戦前ニッコールが完成し、またこのニコン、海軍と言ったところを基点に光学技術が国内に広まった。そして、日本人の気質にあったのか、これを在野で研究開発するものが現れた。これをバルナックライカの日本版で始めたのが、キヤノンであり、ツァイス、ライカ級の顕微鏡開発に立ち向かったのが当時の高千穂、今のオリンパスというわけだ。そして、日本は第二次大戦ではこの独逸と同じ枢軸国側に付く。第一次、第二次大戦突入まで日本は独逸の光学技術を吸収できるという希有の立場にいられ、当時の先人達はそれを苦労の末ものにしたわけだ。

 そして、この光学機器の先端の技術を日、独で押さえているという事実は今も変わらない。カメラだけみれば日本独占の様に見えるが、NASAですら、光学関係は未だツァイス、或いは日本企業抜きは考えられないし、事実顕微鏡等ではツァイス、ライカは未だにライバルであり、軍事、防衛等の先端まで行けば未だ光学の巨人ツァイス、ガラスのショットに追いついていない部分はいくつもあるのである。そして、どうやら光学メーカーが持っている、レンズそのものの技術や、内視鏡等の先端の技術に関しては、現在でも国家防衛上他国へ流出しては困る技術が少なからず含まれているということだろう。

 従って、例えばコニカミノルタがソニーにDSLR事業を譲渡した様に、事業として売却(特許等はコニミノに残存)であったり、そもそも日本というくくりで見て「この門外不出の技術を継承する会社が国内で変わっただけ」というのであれば問題なかったのであろうが、今回の迷走を許すと海外へ流出する懸念が生じたのではないかと思うのだ。或いは、HOYAとの契約期限が5月末、そして、上記の政令等の告示が6月となれば外資系がペンタックスを丸ごと手に入れる可能性を封じ込めたとも言える。

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 考えてみれば、カメラ、特にその時々の最高級カメラ今で言えばDSLRと言うのは因果な商品である。極めて趣味性が高い嗜好品でありながら、その製品化のためには国家防衛上に抵触する様な技術を有し、趣味性故にきまぐれな需給に左右され他の光学機器比低廉な利益率に甘んじないと行けない。しかし、他の光学機器よりも市場規模だけは大きい。また、使われる目的も一部のプロ用をのぞけば、「写真を撮る」という趣味に使われる道具である。

 例えば、これが趣味の万年筆であるとかあるいは、絵画の筆とか言ったものであればそういう人向けに小規模な企業がニーズを満たすと言うことも可能だろう。事実光学機器でも比較的市場規模が小さく、ローテクである双眼鏡等は中堅、中小企業がすばらしい製品を出し市場を押さえている。すぐれて趣味性の高い商品でありながら、高度な工業製品でもあるというジレンマがある。

 「おいおい、Hiroさん、そしたらペンタックスの様なその門外不出の伝承にふさわしくないのは消えてもしょうがないって言うのを肯定しているだけじゃないか」とカメラファンには言われそうである。半分正しくて、半分違う。(笑)

 このジレンマを抱えつつ、独逸から日本へ伝わり営々と発展させている光学技術、そしてその一つの見本とも言えるDSLRシステムを守り抜く会社としてペンタックスが少し荷が重くなったのは認めるとしよう。しかし、ではこのペンタックスが営々と育ててきたペンタックスブランド及びそのDSLRシステム自体を消して良いのかと言うのは別問題である。

 最先端、或いは軍事転用の可能性のある技術を国家防衛上保護するという考えの是非は論じない。これをいわゆる「常識、所与のもの」として受け入れるならば、新規に開発しない限り既存のシステムの継承権の資格は日本企業にしかない。そしてDSLRシステムをファンとし、愛する人々は世界中にいる。国家防衛上のしばりを遵守した上で、このDSLR等の光学技術を独占する以上、これらの世界中の人々に様々なカメラを提供する、或いはこれらの人々にも支えられて育ってきた日本のカメラのブランドを、守り育てていく責務もあるのではないかと思うのだ。
権利と裏腹の義務、或いは先端の一技術を占有する見返りに負うべき負担とも言えるだろう。

 と考えれば、ペンタックスという企業が消える消えないと言う話しと、DSLR事業をなくしてしまう、しまわないと言う話しは別次元でとらえられないといけない。企業、事業は継承は出来るが、ブランドは一度消してしまうと再興は至難の業である。例えば、証券コードの順番でいくと光学会社の中にニコンがあり、一つ飛ばしてオリンパスより高収益で且つすばらしい光学技術を持った古い歴史のメーカーがあり、そして次にオリンパスが並んでいる。この会社はなんという会社かご存じだろうか?かつてはすばらしいカメラを作っていたトプコンという会社である。カメラ好きの方や年配の方はご存じかもしれないが、では今、ニコン、オリンパス、トプコンと並べて世間一般的な会社の知名度を比較すれば差は歴然であろう。
  
 何れにせよ、ペンタックスのカメラがどういう帰結をたどるか。オリンパスもあざとく、時期を合わすかの様に光学、デジタルカメラ開発技術者の中途採用をHPを使って大々的に募集している様である。(苦笑)今後も引き続き関心を持ってみていきたい。
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by hiro_sakae | 2007-05-20 09:44 | 雑記諸々


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