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2007年 05月 27日
オリンパスの株主防衛策と、オリンパスという「人格」
  すいません。これはP社のが出た時からここのブログもさることながら、本業つながりで私がオリファンを知っている方からも、「ところでHiroさんの好きなオリンパスは」なんて話題を振られていた。(苦笑)ここに来られるファンの方で真面目に心配している人は少ないと思うが、興味のある方はどうぞ。



  オリンパスは、株主防衛策を去年の株主総会で導入を提案し承認されている。いわゆる信託型ライツプランというもので、今回話題になったP社も導入しているものである。特殊なものという訳ではない。

  信託型ライツプランってなあに?と言うところは簡単に言うと次の通りだ。
先ず、TOB等で新しい株主が現れ提案があった時にこれが企業価値増大にマイナスの単なる利ざや稼ぎ等の場合には、排除するために既存株主に所有株数と同額の株数を大体1円で割り当て増資するものだ。一気に株数が新しい株主以外は倍に増えるので株の価値が希釈化する。乱暴に言えば買収額を倍額増やさないと買えなくなったり、そもそも持っている株のシェアが半減してしまうと言うものである。

尤も、こういう荒技が簡単に出来るというわけでなくこれを行うためにはそもそも新しい株主の提案が企業価値増大等にマイナスなのかどうか、少なくともそれと経営側の計画案との比較でどうかと言ったことを客観的に判断する委員会を通常設ける。この辺の手続きは、種種の商法他法令を遵守しなければならない。もし、この発動を経営側の恣意的なものでなされるなら、本当に株主価値を増大させる有効な提案をつぶしてしまうことになるからである。事実、P社においても結局このライツプランは発動されなかった。

と言うわけで、仕組み自体は同様のプランを入れているところで大差はないものの、これに関する考え方の表明等で各社微妙に色が出ている。オリンパスは去年導入したわけであるが、どうなんだろう。

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 平成18年5月10日付の公開情報「当社株式の大量取得行為に関する対応策(買収防衛策)の導入について」というのが正式文書名である。そしてこれは現在去年の株主総会で承認され有効に機能している形だ。

 大体、ライツプランの説明自体を含むとこの手の文書は長くなりがちだ。オリも結構長い。特に本来の手続きとは関係ない前段のオリの思想的なものに4ページ近くも割いている。これはP社の同様のリリースと比較してもユニークな部分である。一言で言えば、このライツプランを導入する理由として通常「会社の企業価値ひいては株主共同利益を確保し、向上させることを目的」として上げている。そして、導入する時はその会社が中期計画等を策定していることが多く、この計画を達成するのが当社の企業価値最大化に一番資するからこれよりも更に株主価値を増大するならともかくそうでないなら、だめよと言う形になるのが常である。

 恐らく、こういうのは決まり文句のひな形があるのだろう。中にはこれに加えてその会社独自の熱い思いを加えている会社があるが、オリンパスもその1社と言えるかもしれない。

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 さて、オリンパスとて会社の企業価値、利益を確保し向上させることを企業として追求しておりこれを更に進めるより良い提案であればそれを受け入れることにはやぶさかでない。そしてそれを判定するために第三者機関を設置している。問題は、「では、具体的に(可否を判定するとして)オリンパスの企業価値、利益の源泉は何か」と言うところだ。何を提案するにしても、ここをつぶしたらそもそもオリンパスという企業の価値創造の連鎖がつぶれてしまうからそこのところをふみはずしちゃだめよというところであろうか?ではそれを見てみよう。

1.基本思想
 オリンパスには生活者として社会と融合し、社会と価値観を共有しながら、事業を通じて新しい価値を提供することにより、人々の健康と幸せな生活を実現するという「ソーシャルイン」という思想があり、これがすべての企業活動の基本思想となっている。そして、オリンパスという会社の収益活動は「社会が真に求める新しい価値を創造し続け、かつタイムリーに提供していくことで、当社の企業価値ひいては株主共同の利益を確保」することと規定されている。

2.そして企業価値・株主共同利益の源泉
 上記の基本思想に則り、オリンパスの価値、利益の源泉は「オプトデジタルテクノロジー」「顧客との強固なネットワーク」「ワールドワイドなブランド力」となっている。実際には、全部門に及ぶオプトデジタルテクノロジーというメーカーとしての強みをベースに、これを構築し磨いていくために顧客とのネットワーク、ブランド力が作用し、また新たな技術レベルに挑むという形だろう。

 オリンパスという、会社の存在意義ならびにメーカーとしての収益の源泉を規定している上記の規定に異存のある人は無いであろう。ここが違うとか、こんな技術の将来性を評価していないというのなら「なんでそれならわざわざオリンパス買収するの?」という話にもなる。ただ、上記を踏まえた上で、より洗練された提案があればそれは当然受け入れる形になる。

 例えば、これを突き進めるためにはカメラはいらないんじゃないか?と言う議論である。これに対し、オリンパスはこの収益の源泉の3つのファクターを構築し今後も価値増大するために必要なことをこう規定している。

3.3つのファクターを強固に育てたもの
 まず、オプトデジタルテクノロジーというコア技術のこれからの育成及び、これまで培ってこられたのは「長年にわたって蓄積されてきた技術、知識やノウハウを世代間に渡って継承することにより、中長期的視点に基づいたコア技術の育成」であると言い切る。

 顧客ネットワークの構築では、特に医療事業においてオピニオンリーダーである医師との強固なネットワークと協力関係の強化が肝であると言っている。これも、長年の信頼関係と地道な共同研究等を営々と中長期的に続けていって初めて出来る大きな財産であろう。

 そして、ワールドワイドなブランド力の源泉はコンシューマー事業(カメラ)において営々と築き上げた知名度であり、またこれはオリンパスのソーシャルインの思想に基づけばオリンパスの光学機器が単に医療用、研究用と言った機材だけにとどまらず広く社会に認知、役に立つため、オリンパスブランドを社会に広く浸透させるためには、なくてはならないものである。
 特に、オリンパスのカメラ等を統括する映像部門は、このブランド浸透のためのコンシューマー事業と併せて医療・健康にまたがる新事業の創生も担っている。

 つまり、オリンパスは光学メーカーとして、社会にとけ込み社会に役立つことで収益を上げたい。そしてその元になる3つの要素は、医療、健康や、映像事業が三位一体となって築き上げているものであり、またそれぞれ長期的な視点で地道に営々と築き上げたものである。これを維持していくためには引き続きこのやり方を止めるわけにはいかないというところだろう。本文では内視鏡にさらりと触れているが、恐らくオリンパスとしては、目先凸凹あっても愚直にこれをすすめたからこそ出来たという、製品群、或いは営業網、あるいはネットワークという「証拠」を持っていると思われる。(苦笑)
 
4.おまけその1,特別委員会について
 そうは言っても、特別委員会のメンバーがこれらを理解し判断できるメンバーだろうか?オリンパスと利害関係の無い5人が選出されているが、コアメンバーは社外取締役も勤める2名の方だろう。一人は経産省OBで元ジェトロの理事長、国内企業対策向けか?(苦笑)そして外国人としては、ロバート.A.マンデル氏が就任している。そう、国際金融や投資をかじったことならご存じのMF理論で有名なノーベル経済学賞受賞者にしてコロンビア大教授のあのマンデル氏である。まあ、仮に外資系のすごいのが来て、この委員会に可否をかけられることになっても、マンデル先生に「こりゃあかんで」と言われたら納得も出来ると言うところだろうか。(笑)

5.おまけその2.大株主について
 オリンパスというのは少し変わった会社で筆頭株主は日本生命、そして第二位は三井住友銀行で、合計あわせて14.81%持っている。三井住友銀行は銀行のため本体で5%以上は持てないので、自社の退職年金の信託口と分離している。
 一風変わったというのは、実はオリンパスというのは戦後かなりダメージを受けた様で再生のために、当時の株式を一旦100%減資し(紙くずにし)赤字を埋めた上ですぐさま大増資をするという荒療治を行っている。このときこの増資を受けてオリンパスを存続させたのが日本生命と当時の住友銀行である。従って戦後の一時期オリンパスは日生出身の社長が就任していた時期があったのである。従ってこの2社は単に金融の機関投資家として株を保有していると言うよりも戦後オリンパススタート来の本来の株主である。
  これに、同じくつき合いの古い三菱UFJ銀行さんが続き、テルモと続く。信託口とある株主も裏をたどればシンパである。従って大株主が安定して株を所有してくれている構図である。

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 と言うわけでオリンパスは大丈夫だよ~と思っている。尤も、これらをすべてクリアーした上で今の経営陣よりすばらしい株主価値向上ができる新たなスポンサーが現れるかもしれない。しかし、それはそれこそ本筋に戻って受け入れるべきではないか。ソーシャルインの思想に則り、内視鏡、顕微鏡、カメラ一体でもっとすばらしい光学メーカーにしてくれるならよりありがたい話しである。

 会社をただの収益マシーンとして見るのもいいが、会社も文字通り「法人」という以上、会社自体が、カラーなり、人格を持っていると思う。特にオリの様に社歴が長くなればなるほどそう思う。そして、このオリンパスなる会社の人格は年齢の割に少々青臭いところもあるが、(文字通りオリンパスブルー?)私は好きである。将来、どうなるかはわからないし、誰が支配権を持とうと関係ないと言えば関係ないが、折角すくすく育ってきたオリンパスの「人格」まで変える様なことはしてもらいたくないなというのが正直な気持ちだ。

蛇足のおまけ
大株主で入っていて、ここのところ医療事業で株を持ち合いし、オリの盟友となっているテルモ。これも因縁は古く、テルモが創業来の主力事業のひとつである体温計事業は、創業間もない頃にテルモがオリンパスから買収した事業である。これでテルモは一気に体温計メーカーとして飛躍し、オリンパスはこの買収資金で多額の研究費用を捻出したという関係だ。

後、大株主でないが社外取締役をだしてもらっているコパルさんも戦後、カメラのメーカーが母校してきた頃に、各社がカメラの製造を拡大するためには、独逸のコンパーの様なシャッターを作るメーカーが必要と業界で声を挙げてコパルを応援した。逆にコパルがわざわざあのPenに入る小さなシャッターを作ってくれたのは有名な話しだ。ちなみに、確か今のE-systemのシャッターもコパル製だったと思う。

by hiro_sakae | 2007-05-27 16:49 | その他オリ絡み


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